
厳しい海気象状況でもDPSを駆使し定点保持させる
■ 職場(本船)の紹介
海洋研究開発機構の所有する地球深部探査船「ちきゅう」。この船の操縦を担う、船橋が私の職場です。掘削地点に定点保持するDPS:Dynamic Positioning System(自動位置保持装置)、360度旋回可能な6基のアジマススラスター、この船のシンボルともいえる船体中央に高くそびえ立つ掘削櫓等、海洋掘削の為に必要な特殊機器を備えています。この船のミッションは、地震発生メカニズムの解明と前人未踏であるマントルへの到達等です。
■現在の業務

地球深部探査船「ちきゅう」に航海士兼DPO:Dynamic Positioning Operatorとして乗船し、DPSの運用及び関連機器の保守管理、航海当直、航海計器の保守管理を行っています。海上で掘削作業を行う為には、海底に対して定点に留まっておくことが必要となります。掘削作業を開始すると、数ヶ月に渡っての定点保持が必要となります。「自動」という言葉が入っていますが、船首方位は、我々DPOが設定しております。掘削作業を安全且つ円滑に進める為、船体動揺が極力発生しない適切な船首方位を選択する必要があります。
長期間の定点保持となると、当然、補給も必要となります。同じくDPSを装備したSupply Boat(補給船)から、掘削に必要なパイプ・資機材・食料・燃料等を補給し、不必要となった資機材を荷下げします。この荷役作業の間も掘削作業は続きますので、掘削作業が安全に行うことが出来、Supply Boatと安全に荷役作業が行える様、船首方位を選択しています。荷役はクレーンにて実施したりホースを接続したりと様々です。
■やりがいや誇りを感じる時
「船は荷物を運ぶ為に走る」というイメージですが、本船は掘削するために定点保持します。「DPSにて定点保持している」と聞くと「停まっている」とイメージできるのですが、実際には風・潮流・波・うねり等の様々な外力に対し、絶えずプロペラを使用しています。つまり地面に対しては停まっていますが、海面に対して走っています。掘削パイプで海底とつながった状態で船が移動してしまうと、大事故につながるので、いかなる状況であっても、その場所から離脱することができません。平穏な天候の日もあれば、黒潮の様な潮流の速い海域、発達した雨雲や寒冷前線の通過に伴う高波及び風の急変など、同じ状況は2日としてありません。また、掘削作業は中断していましたが、約2500mの掘削パイプ等を吊り下げたまま、大型台風の暴風圏が通過した経験もあります。一旦、掘削作業を中断して離脱してしまうと、作業日数の遅れが生じてしまいます。「いかなる海気象状況においてもDPSを駆使して、この巨大な掘削船を定点保持させる」という仕事のやりがいは感慨深いものです。