地球温暖化を解明する1----「みらい」の船上

  昨今の異常気象は地球温暖化が原因の1つといわれ、こうした地球環境の変化には海洋の状態が大きく関与していると考えられています。地球温暖化防止京都会議が開催された1997年12月、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)殿の海洋地球研究船「みらい」は震災復興が進む神戸港で一般公開中でした。   当時のTVニュースでは「温暖化などの地球環境変動を解明予測するため、原子力船「むつ」から生まれ変わった本船に大きな期待が寄せられている」と紹介されました。深刻な社会問題となりつつある 地球環境の変動を最前線で観測しているのが(株)グローバルオーシャンディベロップメントが運航する「みらい」なのです。

地球観測船「みらい」とは
  世界最大級の海洋観測船です。北極海のような流氷域も航行できる耐氷構造を有し、大きな波が甲板に上がらないように水面からの甲板の高さを上げるなどの工夫を施し、これまでデータ収集が困難だった極域や荒天域での観測を可能にしています。 研究には高精度の観測が要求されるため、約1万トンの船体を10センチメートル単位でコントロールするJCS(Joy stick Control System)や高層ビルの揺れ防止装置を応用した減揺装置、ドップラーレーダー(200キロメートル先の雲を立体的に観測)など、世界初・日 本初の機器をいくつも装備しています。

上:分野別に色分けさ
れた20の研究室


左:乗船者全員集合

「みらい」概要 全長 128.58m
19.0m
深さ 13.2m
喫水 6.92m
国際総トン数 8,687トン
航海速力 約16ノット
定員 80人(乗組員34人,観測人18人,研究員28人)
観測技術人と通信長が
水深1万メートルの海底を調
べてゆく。
”最新設備に満足”
と話す研究者
サントス港(ブラジル)で
取材陣を案内する赤嶺正治船長
海洋データの発信基地
  大学の研究室にも無い、最先端の観測・分析機器を操作・管理するため、専門知識や技術を持つ観測技術員も乗船し、研究者が観測・分析したデータをインターネットなどを通じて速やかに公表しています。
動く科学館
  温暖化やエルニーニョ現象*1といった地球環境問題と海洋とのかかわりを理解してもらうため、船内や搭載機器、そして研究成果を世界中で公開しています。これまで5万2,000人を超える見学者が本船を訪れました。船上科学教室や海洋科学技術学校なども開き、乗組員も講師を務めています。
*1エルニーニョ現象:太平洋の赤道付近の海水は日射により暖められ、通常東寄りの貿易風で西側に送られるが、この暖かい海水が何らかの原因で東に移動し、赤道付近の広い範囲に温度の高い海域が発生する現象
食糧事情
  世界中の研究者が乗船している「みらい」には、国境がありません。総勢80人の食事 を預かる調理場では、6人の司厨部員が世界のさまざまな料理を作っています。いったん観測航海に出ると長期となり、食材の補給が難しいので、その管理が大変です。

上:夕食の準備が進む調理場。手際よく料理が盛り付けられていく

左:今日の献立は寿司と茶碗蒸し。食事はおいしいと好評だ。
目的に会わせた観測作業
「みらい」の研究テーマは、温暖化のメカニズムを知るための海洋の熱循環、物質循環、生態系、そして地震のメカニズムを知るための海洋プレート運動などを解明することです。これらの研究を推進するために乗組員が行う甲板観測作業は、「採水」「採泥」 「観測用ブイ設置」の3つに分けられます。

【採水作業】
CTDセンサー※2と採水ボトル(12リットル)36本を円形状に取り付けた採水システム(約 1トン)を、長さ1万メートルのワイヤーケーブルの先に接続して深海に投入します。採水ボトルには上下に蓋があり、研究者の希望する水深で船上から電気信号を送り、蓋を閉めて採水。採水システムの投入から回収までが乗組員の担当です。水深5,000メートルでの採水には、約4時間を要します。 指揮者、合図者、クレーン機側操作者、クレーン遠隔操作者(後部操舵室)の4人で1 チーム。24時間連続観測は3チーム4時間交代で行われます。
CTD観測作業
昼夜を問わず、自然条件が厳しい中でも所定時間内に作業を終えて、次の観測点に移動しなければなりません。一歩間違えば大きな事故につながるこうした作業を、世界周航では500回以上繰り返しました。貴重な観測データを無駄にしないよう、緊張の連続です。

採取した海水は変質を防ぐため、すぐに温度管理された処理室へ。
観測技術員((株)マリン・ワーク・ジャパン殿所属)が素早く作業を進める。


※2 CTD(Conductivity, Temperature & Depth):電気伝導度(塩分)、水温、深度のこと
【採泥作業】
採泥作業では、ピストンコアラーという直径12センチメートル、長さ20メートルのステンレス製パイプを1万2,000メートルのワイヤーケーブルに取り付け、海底に突き刺して堆積物を採取します。大掛かりな作業なので乗組員全員と研究者、観測技術員数人が参加します。 採取場所は事前の海底探査で決められます。強風や海流のある中で本船を定点に保持し、ピンポイントへピストンコアラーを貫入させるのは大変難しい作業ですが、これまでの実績によれば水深5,000メートルの場合、誤差は150メートル以内に収まっています。これは5キロメートル先の直径150メートルの的に矢を当てるようなもので、非常に精度が高いといえます。
左上:採泥作業前、参加者全員が現場指揮者である観測士官 (一等航海士)の「ゼロ災害でいこう」の掛け声で安全確認を行う。
右下:ピストンコアラーを投入。約1.2トンの重りが取り付けられ、 その重さでピストンコアラーを海底の堆積物に貫入させる。
【観測用ブイ設置】
観測用ブイは、ブイシステム全体の水中重量を支えるための浮体と、海底に係留するための重り、そして浮体と重りをつなぐケーブル(長いもので6,000メートル以上)で構成され ています。浮体とケーブルには多数の観測機器が取り付けられています。設置作業は、まず浮体を投入し、ケーブルを船尾から繰り出していくのですが、波などの衝撃で精密な観測機器が破損しないよう、一般の船では考えられない超微速(0.1ノット単位)で船を進め、最後に重りを投入します。これまで本船は多くの観測用ブイを設置しており、特に海面下30メートルに浮体を静置させる新しいシステムを水深5,200メートル以上の海底に設置したのは「みらい」が世界で初めてです。本船の優れた機能がそれを可能にしました。 一方、回収は本船搭載の作業艇で行います。高い波間に見え隠れする浮体を捕捉するのは至難の技。熟練した船員だからこそ、なせる作業です。

エルニーニョ観測用ブイを赤道付近に設置。


半年前に設置したブイを作業挺で回収中の井上治彦観測士官。
得られたデータは、人工衛星を通じてむつ研究所(青森県)に送られ、翌日には世界へ発信される。